2017年2月14日。
この日の朝ごはんはフォーと油揚げの焼きそばのようなもの。素朴でおいしい。
朝から、とおるさんはしょんぼりしていた。
ホイアンの宿にパンツを忘れてきちゃったかも…とのこと。
ふんふんと話を聞きながら、「ブラジャーじゃなくてよかったね」と声をかけた。
「それ、どういう意味?」
とおるさんの雰囲気が変わった。これは、怒ってる?
とおるさんが怒るところは、今までほぼ見たことがない。結婚してからどころか、付き合っていたころから。いや、15歳で出会ったときから。
ビビリながら自分が言った言葉の意味を考えた。
そう、あまり考えず生返事していたのである。
「えっと…パンツならどこでも買えそうだから、ブラよりマシかな~と思って…」
「ぼくの話と関係なくない? ぼくは、すごく怒ってるんだよ」
「……うーん…」
返事をしたときのボヤッとした頭の中をどうにか言語化しながら、どんどん情けなくなってきた。
内容がしょうもないのもさることながら、大事なものをなくしたとおるさんの気持ちに寄り添っていないばかりか、なんなら煽っている。
「ごめん」
「前から思ってて、我慢してたんだけど、なっちゃんてそういう嫌味なことを言うときあるよね」
「えっ。そうかな…」
そうかなと言いつつ、めちゃくちゃ心当たりがあった。
とおるさんは大事なことは忘れないけど、それ以外の細かいことはけっこう忘れっぽい。
そして逆に細かいことを気にする私は、その「忘れてちゃってた」に対して辛辣な態度をとりがちだった。
時に呆れ、時にチクチク嫌味を言い、たまに無言だったりもした。
とおるさんはこの日いきなり怒ったわけではないのだ。
これまでのモヤモヤが積み重なって、ついに耐えきれなくなってしまったのだ。
とおるさんは私の隣に座って、まさに心当たりのそういう態度が嫌で、つらかったということを、ゆっくりと話してくれた。
たしかにすごく怒っているのに、声を荒げるどころかむしろ静かに「なぜ怒っているのか」だけを話すとおるさんを見ていたら、誠実すぎる姿に涙が出てきた。
今泣きたいのはとおるさんの方なのにと思いつつ、これまでの思い当たるシーンがなぜか続々と頭に浮かんできて、止まらなくなってしまった。
時間がかかってしまったけど、なんとか謝って、これからそういう態度を改善していくことを約束した。
正直に言うと、辛辣な言動は無意識にやってしまっているものが多いから、そういう性格なんだと思う。
とはいえ、変えた方がいい。
ネガティブな会話のときに「自分の番」が来たら、今日のことを思い出すように努力することで、少しずつでも変えていけそうだ。
ひとまず仲直りということで、気持ちを明るくするために海へ行くことになった。
そういえば、ダナンはベトナム屈指のビーチリゾートだった。真冬の今は完全にシーズンオフだけど。
もうお昼になっていたので、まずは食事。
昨日のミークワンが気に入ってしまって、またもやミーガー。違うお店で食べ比べ。
ここのはクニュッとした食感のしっかり味が付いた鶏と、ナッツが乗っている。1杯100円。
ナッツの香ばしい香りとカリカリが、昨日のお店とはまた違うおいしさ。
正月飾りの残るかわいい路地を抜けると、海が見えてくる。
着いたのは、宿から徒歩圏内にあるミーケビーチ。ダナンで一番有名なビーチらしい。
さすがに寒くて海に入っている人はなし。
それでも砂浜で遊んだり、ビーチチェアに座って海を眺めている人はわりといた。
まだ楽しくおしゃべりしながらという雰囲気ではないけど、写真を撮ったり、砂浜をふたりで歩く。
そして、そのテンションで「マッドスパ」へ突撃したのだった。
ちなみに、この日から早や4年半経った現在、性格はかなりまるくすることができたと思う。
「自分の番」を意識するようになったのもあるけど、旅暮らしを終えて定住したことで、心に余裕ができたのが実は一番大きな理由。
食事・宿・移動手段・行先などなど……いつもの生活よりも決断することが多く、宿でゆっくりする日ですら先のことを考え続けていた気がする。
次は、自由だけど「決めるべきこと」の少ない旅ができるようにしたい。
ついでに言うと、目下浮上しているのは「とおるさんの話さえぎりがち問題」である。
とおるさんの言葉をついついまとめようとしたり、先取りしようとしてしまう。
そのうえ、「ち、違うよ…」と言われちゃったりする。
これも改善すべく、とおるさんの会話の終わりを意識しているのだが、タイミングをうかがいすぎて無言になって「聞いてた?」となることがある。
どれだけいっしょにいてもコミュニケーションは難しいけど、ずっといっしょにいるために良くしていくべきことなので、これからも頑張りたいと思う。